会いたいと思うだけで罪


青葉市子 - サーカスナイト

 

 

話したことも、聞いたこともぽろぽろと落としてしまう人。を好きになった。絞り出すように話してくれたことも、一生懸命話したことも、ぜんぶ忘れてしまっていて、わたしとではない人との大切な思い出を抱えながら生きている人。到底いちばんにはなれなくて、でもいちばんになりたくて、恋だけしていられたらどんなにか幸福だっただろう、今のわたしにはそれができなくて、時間もないし、余裕もないし、支えられたいし、甘えたいから、君とはもう、時々会って、近況なんかを話したりして、また近いうちに、なんていいながらさよならして、いつかはもう二度と会わなくなるような、よくある普通の「ともだち」にしかなれないんだろうと思うと、悲しくって、胸がキュッとなって、泣きたくなる。

わたしにも大切な思い出がたくさんあって、今も心の中に大事にしまっていて、文章を書くとき、冬の道を歩くとき、雨の朝物思いにふけるとき、ふと蘇って、しばらくトリップしたりするけれど、一緒にいるときは、一緒にいるその時間のことしか考えていないのに、彼はそうではなくて、でもそれを求めるのもおかしな話で、つまりはわたしの、完全な片思いなのだなあ。

それでも冬は寒いから、誕生日を迎える君のために手袋をふたつ買う、わたしです。