シャリシャリ


シャリ、シャリ、と自転車を漕ぐたびに謎の音がする。一か月に一回は油を挿してメンテナンスしてあげてくださいね、と優しく言ってくれた自転車屋のお兄さんの顔を思い出しながら、謎の音がし始めてからどのくらい経ったろうと考えた。

夜、職場から家までの道をシャリシャリ鳴らしながら帰る道すがら、ふと泣きたくなってグッと息を飲んだ。夜が来るのが早くなって、吐く息の向こうに電灯の明かりがぼんやりと滲んで、冬が来たなと気づく。寒くなってきたな、と思った時にはもう冬である。それくらい、この街の季節は目まぐるしく変わっていく。

ひとりぼっちだ。そう思うことが日に何度もある。わたしのように良い友達も良い職場もある身でこんなことを言うのはふざけていると自分でも思う。それでも、その気持ちが拭えないのである。確かな根拠が、わたしがこの世界にいていい確かな理由が欲しいって最近強く思う。その理由を誰かください。そう思って日々新しい人に出会おうと努力する。少し良いなと思う人に会って、話をして、ちょっとしたズレに気付いて、なんとなくお互い離れて、また知らない人同士に戻っていく、というのをここ数ヶ月続けている。そうしていると、次第に自分の体が渇いていくのを感じる。加湿器買ったら?という友人の声が思い出される。加湿器で満たされる体なら良かったのに。

彼と連絡を取らなくなってから、もうすぐ一か月が経とうとしている。その間、わたしは一度も自転車に油を挿さず、シャリシャリシャリシャリ言い続けた。そうしている間にこの街には冬が来た。彼がわたしと会わないので、わたしはどんどんひとりぼっちになっていった。新しい家の空気は乾燥していて、わたしは干からびてしまいそうだ。誰でもいいから満たしてほしいと思えば思うほど、誰でもいい訳がないと嘆くのだ。こんな自分はもう本当に嫌だし、飽き飽きしてきた。

どこかに行ってしまった自信を取り戻さないと。誰かに拾ってもらうんじゃなくて、自分で拾わないとね。